グミ・チョコレート・パイン パイン編(大槻ケンヂ)(角川文庫)

グミ・チョコレート・パイン パイン編 (角川文庫)

グミ・チョコレート・パイン パイン編 (角川文庫)

3部作の完結編。去年の11月に出たのを知らなくて今頃になっ手に入れました。本作は2巻目のチョコ編から(ハードカバーの方は)8年ぶりに書かれたと言うこともあって、微妙に雰囲気が違う。まるで映画を見ているかのような疾走感のある展開で、悩める若者たちの青春群像を前向きに描いていて、クライマックスはカタルシスを感じたものの、心の闇を歌っていたインディーズバンドが、メジャーデビューはしたものの口当たりのいいポップスに転向したような寂しさを感じました。

心機一転、久しぶりにグミ編から読んでみたんだけど、自分的には「自伝的小説」と銘打って登場したこの頃がベストで、己の魂をえぐるように、心の闇を赤裸々に描いた鋭い描写にはうならせるものがありました。気に入った文章を引用。

彼ら(主人公たち3人グループ)にはある一つの共通点があった。
「自分には何か人と違った能力がある、だがそれが何なのか今は分からない」と言う「想いだ」

自分はこの(映画感想)ノートをつける時間をとても大切にしていた。ノートに文字を書き込む度に、自分の存在には意味があるのだ、と思えるような気がした。ノートのページに書き込まれる映画の本数が増えることは、賢三の言う凡庸な連中との差が少しずつ増していくことを意味していた。

どんな本を読んでいるかで、その人のどれだけの値打ちがあるのかがわかる、と彼女は信じていた。人よりたくさん本を読み、映画を観ていることが彼女のアイデンティティーだったから、他人にもそれを求めた。そうあって欲しかった。そして、同級生たちの本棚が浅はかであればあるほど、彼女は優越感に浸ることができた。

文庫で読んだ当時は便利な言葉がなかったけど、今にして思うと典型的な「中二病」と嘲ることが出来そうだけど、オタク気質自体が不治の中二病と言う気がしないでもないので、彼らの重いがグサリと突き刺さる。

作中に当時の流行曲や映画などが多用されていて、80年台の空気を強く感じるところも好き。作者と同年代の青春を過ごした方…げーオーケンってもう41なのか…と言うことで、30代後半以上に強くお勧めの作品w。
漫画化に続いてまさかまさかの映画化で秋には公開が予定されているんだけど、時代設定はどうするんでしょうね? ズリネタは、ネットで拾った動画なんかじゃなくて、GOROとか写真時代のグラビアアイドルであって欲しい。